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電気自動車の心臓部であるインバーター

執筆者 Romain Nicolas

電気自動車のインバーターはパワートレインの重要な臓器であるにもかかわらず、バッテリーや電気機械に比べて見過ごされがちです。NAS (2010年) の調査を見ると、インバーターはPHEVの中でバッテリーに次いで高価なコンポーネントです。

プラグイン・ハイブリッド電気自動車のコスト内訳分析 (NAS、2010年)
図1 プラグイン・ハイブリッド電気自動車のコスト内訳分析 (NAS、2010年)

したがって、インバーターのエンジニアリングは慎重に行う必要があります。これが、このブログのテーマです。

Simcenter Amesimと人間の心臓との類似性

なぜインバーターが心臓にたとえられるかというと、さまざまな臓器 (電気モーター、バッテリー、車載充電器など) 全体に血液 (エネルギーまたは電気) を送り込むからです。

また、心房や心室が全身に血液を送り出すのと同じように、インバーターのトランジスターやダイオードは電気回路に電子を流します。血圧は電圧レベルに相当します。血液が脳に適切に行き渡るようにするには、十分な血圧が必要です。

電動化のための優れたシステム・シミュレーション・ソリューションであるSimcenter Amesimは、電気自動車のさまざまな電圧レベルを比較し、電流レベルや、電流品質、パワートレインの効率への影響を確認できます。

Simcenter Amesimによる電気自動車用400Vと800VインバーターでのDC電流の比較
図2 Simcenter Amesimによる400Vと800VでのDC電流の比較

電圧レベルを定義した後、トランジスターのテクノロジー (通常はIGBTまたはMOSFET) を選択します。

Simcenter Amesimでは、これを2つの方法で実行できます。データシートからデータをインポートする方法と、Xpedition AMSまたはPartQuest Exploreから導通波形とスイッチング波形をインポートする方法です。

さまざまなトランジスターの比較と、それらが電気自動車の航続距離に与える影響を、システム・シミュレーションから推測します。以下は、68kWhのバッテリーを搭載した中型電気自動車をSFTP-US06の走行サイクルでシミュレーションした結果です。

Simcenter AmesimによるIGBTとSiC MOSFETの航続距離の比較
図4 Simcenter AmesimによるIGBTとSiC MOSFETの航続距離の比較

インバーターのスイッチング周波数の重要性

電気自動車のインバーターのスイッチング周波数は心拍数に似ており、Simcenter Amesimは医師が聴診器を使うようにスペクトル・マップを使用して、インバーターの騒音振動挙動を評価できます。

Simcenter Amesimによる電気モーターのトルクリップルのスペクトル・マップ
図5 Simcenter Amesimによる電気モーターのトルクリップルのスペクトル・マップ

ここでは、電気機械のトルクリップルへの影響を観察しました。この電気自動車のインバーターのスイッチング周波数は10kHzで、最初の高調波が20kHzで観測されます。

電気的には、高周波電流の変動を電流リップルと呼びます。リップルがDCバスを伝搬するのを防ぐためには、DCリンク・コンデンサーが必要です。これが、高周波ACの好ましい経路になります。

DCリンク・コンデンサーの画像
図6: DCリンク・コンデンサーの画像

DCリンク・コンデンサーは、DC電圧を安定させる、つまりリップル電圧を減少させるためにも使用されます。

スイッチング周波数を高くすると、DCリンク・コンデンサーの小型化が必要になるため、部品の小型化とインバーターの電力密度の向上につながります。以下は、0.005FのDCリンク・コンデンサーを使用した場合における、さまざまなスイッチング周波数の電圧リップルを比較したものです

Simcenter Amesimによるさまざまなインバーターのスイッチング周波数に対する電圧リップル解析
図7 Simcenter Amesimによるさまざまなスイッチング周波数に対する電圧リップル解析
Simcenter Amesimによる電圧リップル解析の拡大画像
図8 Simcenter Amesimによる電圧リップル解析の拡大画像

電気自動車用インバーターの熱管理

スイッチング周波数 (心拍数) を上げると、心臓から放出される熱が多くなります。インバーターは複雑なエンジニアリングで完成するものであり、 その過渡熱挙動を正確に把握するには、3D CFDまたはテスト手法が必要です。実際、トランジスターのジャンクション温度など、インバーターにはホットスポットが発生し得る箇所があります。温度が指定された限界を超えると、半導体が故障したり、熱疲労が蓄積したりする可能性があります。

Simcenter Amesimでは、これらのホットスポットを正確に特定するために、次の2つのモデル縮退手法を使用できます。

  • 個々のトランジスターのCauer/FosterモデルをSimcenter T3STERまたはデータシートからインポート
Simcenter Amesimの半導体熱インピーダンス・アプリ
図9 Simcenter Amesimの半導体熱インピーダンス・アプリ
Cauerモデルを使用したSimcenter Amesimの半導体温度シミュレーション
図10 Cauerモデルを使用したSimcenter Amesimの半導体温度シミュレーション
  • Simcenter Flothermのインバーター境界条件に依存しない次数低減モデルFMU (BCI-ROM FMU)
Simcenter FlothermによるBCI-ROM FMUの作成とSimcenter Amesimへのインポート

下の曲線は、SFTP-US06の走行サイクルにおけるIGBTとSiC MOSFETのジャンクション温度の比較を示しています。炭化ケイ素は熱伝導率が高いため、スイッチング損失が少なくなり、温度が低くなります。これにより、冷却システムの容量を減らしたり、インバーターのスイッチング周波数を上げたりすることができます。

Simcenter AmesimによるIGBTとSiC MOSFETのジャンクション温度の比較
図11 Simcenter AmesimによるIGBTとSiC MOSFETのジャンクション温度の比較

インバーターの故障解析

これまで通常の動作条件での電気自動車の心臓部の説明をしましたが、例えば「細動」の場合など、故障時に何が起こるかを見てみましょう。

心房細動は心拍が不規則で速くなることの多い病気であり、脳卒中や、心不全、その他の心臓関連の合併症のリスクを高める可能性があります。

心房細動の間、心臓の2つの上部の部屋 (心房) は、心臓の2つの下部の部屋 (心室) と協調が乱れ、無秩序かつ不規則な脈になります。心房細動の症状には、動悸、息切れ、脱力感などがよく見られます。

電流センサーがグランドに短絡した場合や、機械速度センサーがオフセットの影響を受けたり、異常な値を返したりした場合に、電気自動車のインバーターに細動が発生する可能性があります。次のビデオは、このような故障の熱的および電気的影響を説明しています。

Simcenter Amesimによる電気自動車インバーターの故障解析

最後に、インバーターは心臓と同じくらい複雑なコンポーネントです。電気自動車のインバーターの適切な動作を理解し、制御するには、相応のエンジニアリング作業が必要です。この労力は、Simcenterポートフォリオにあるような、高度なシミュレーション手法によって軽減できます。

インバーター設計プロセス全体の詳細や、Simcenter Amesimのデモをご覧になりたい方は、こちらのオンデマンド・ウェビナーにご登録ください。

GKNがこのエンジニアリング・ワークフローを使用して、電気自動車向けeDriveの市場投入期間と試作ループの回数をどのように削減したかについては、こちらをご覧ください。

また、Simcenter STAR-CCM+による三葉弁の流体構造連成解析シミュレーションで紹介しているような、実際の心臓シミュレーションについてもお任せください。