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いつでもアツい設計のためのクールなキャビン熱快適性CFD

執筆者 Andrea Matrisciano

あなたのHVACの習慣を見れば、あなたがどんな人であるかを言い当てられます。

どのようなHVACエンジニアでも。

ASHRAE 55規格 (American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineersが公開) によると、熱快適性は「熱環境に対する満足感を表す心の状態」と定義されています。

さて、バルセロナに住むイタリア人がテキサスのオフィスを訪れたときの「心の状態」についてのちょっとした逸話をお話ししましょう。

それはマインド・ゲームだ、と彼らは言いました。

私は最近出張でテキサスに行きました。9月のことです。長い間楽しみにしていた2つのことを達成できたので、とても良い旅となりました。

まず、世界中から集まった多くの同僚と直接会い、同じ部屋で一緒に過ごすことができました。そうです。非常に長い机と巨大なテレビを備えたオフィス会議室です。次に、本格的なテキサス・スタイルのスモーク・ブリスケットを試すことができました。どちらの経験も、期待を大きく上回り、数日前に出発したときよりも体重は数キロ重くなったものの、いつもより幸せな気持ちでスペインに帰ることができました。

この旅で私が驚いたもう一つの側面は、オフィス、ホテル、レストラン、車のキャビンの外側と内側の温度差でした。(ヨーロッパの基準では) 巨大な駐車場の中は、悲しいことに記録上最も暑い夏のようでしたが、建物や車の中に入るとすぐに、少なくとも私にとっては「スカンジナビアの穏やかな春の日」のように感じられました (約16°Cまたは60°F)。

さらに興味深かったのは (おそらく私だけだと思いますが)、部屋にいたそれぞれの人が部屋の熱条件にどのように反応するのかを一日中観察することでした。この空調 (A/C) 設定での、私の主観的な「心の状態」は唯一、「暖かいセーターを持ってこなかったことを後悔した」ことでした。しかし、他の同僚は、私より薄着であるにもかかわらず、完全にあるいはそれなりに満足していました。

この時点で、ヨーロッパに帰る飛行機の中でどのように時間を過ごすべきかがはっきりと分かりました。映画『アベンジャーズ』を観るのではなく、Simcenter STAR-CCM+ 2310を開いて、新たに開発した人間の快適性モデルをキャビン熱管理シミュレーションにシームレスに連成させることで、自分の心の状態を多少なりとも理解することでした。

皮膚温度のみならず

これまでのキャリアの中で、数多くの優秀なエンジニアリング・チームと協力し、幅広い用途向けの最先端の熱・流体力学ソリューションの開発を支援する機会に恵まれました。ですから、すでに非常に複雑なマルチフィジックス仮想モデルに人間と皮膚温度の計算を追加するとなると、もう1セット、単純な熱伝達方程式を追加すればよいと考えていました。言うまでもなく、私は控えめに言っても、この作業を過小評価していたことにすぐに気づきました。

人体は、それ自体が非常に複雑なシステムです。 環境変化に対する応答を予測するには、複数のサブモデルと、流れ、エネルギー、輻射ソルバーとの緊密な連成が必要です。そこで、Fiala他によって、人体の熱伝達と体温調節のモデルが提案されました。Int J Biometeorol (2012) 56:429-441 2011年 - そして、その忠実度のおかげで、このモデルは今日まで最先端であり続けています。このモデルは、身体が特定の規則に基づいてセグメント化されていれば (頭部、胸部、腕、脚など)、マネキンのレベルで皮膚温度を評価することができます。Fialaモデルは、生体熱伝達方程式、代謝熱産生、血液循環の物理を解くために使用される多くの重要なサブモデルで構成されています。さらに、別のサブモデルが、ボディ・マトリクス全体の環境との熱交換を計算します。流体側 (空調、輻射ヒーターからの放射など) と固体側 (熱くなったシート/ステアリング・ホイールなど) の両方の影響を、ユーザー定義の衣類層の熱抵抗と蒸発抵抗とともに考慮します。最後に、中枢神経系の本質的な反応を予測するための、体温調節サブモデルも含まれています (マインドゲームを覚えていますか?)。血管収縮、皮膚血流の拡張、震え、汗の水分排泄は、統計的に関連する、確立した測定データに基づいて説明される反応です。

最新ニュースなのですが、これらすべてがSimcenter STAR-CCM+ 2310で実装され、リリースされました。すごいですね!

勝利のための快適性指数

これまでに明らかになったように、Fialaモデルは皮膚温度を非常に正確に予測でき、特に自動車キャビンのシミュレーションでは業界標準と見なされています。しかし、皮膚温度だけで快適性を定量化するのは、十分ではありません。人体は非常に主観的で絶えず変化するという性質を持つため、人間の快適性は、他の工学量 (抗力係数など) とは異なります。そのため科学界はエンジニアに、人間の快適性を確実に定量化して、最終的にキャビンの設計を評価するための強力なメトリクスとして、複数の指数モデルを提案しています。Simcenter STAR-CCM+ 2310は、Fialaの大域DTS (Dinamic Thermal Sensation: 動的熱感覚) およびPPD (Predicted Percentage Dissatisfied: 予測不満足率) 快適性指数モデルと、Rommelfanger他の考案に基づく局所EHT (Equivalent Homogeneous Temperature: 等価均一温度) モデルを使用可能です。

「大域」とは、単一の指標で乗員の快適性を定量化することを指しますが、一方で「局所」モデルは、身体部位ごとに指数を計算する、より詳細な快適性ダイアグラム (右側のグラフを参照) を提供します。

これらのモデル (DTS、PPD、EHT) は、Fialaの熱および体温調節モデルによって提供されるソリューションを入力として受け取り、快適性指数を計算します。DTSは、ASHRAE規格で提案された7段階スケールに基づく無次元数です。負のDTS (-3.0~-1.0) は、マネキンが冷たく感じていることを示し、正の場合はその逆です。ゼロに近い値は、乗員が快適であることを示します。PPDは統計指数であり、特定の条件下で不満を感じる人の割合の推定値です。この場合も、0%に近いほど、乗員が快適に感じている可能性が高くなります。
一方、局所EHT指数は、物理温度です。これにより、人体の各部位の熱損失が許容レベル内かどうかが分かります。値が大きいほど熱損失は小さくなり、値が小さいほど熱損失は大きくなります。さまざまな熱条件下で被験者を1時間テストし、その測定値から、局所EHT値と、知覚された熱感覚の関係が特定されました。この測定は、DIN EN ISO 14505規格 (これによりEHTが快適さの尺度として多くの業界で受け入れられるようになった) の一環として行われました (Rommelfanger他)。

HVACエンジニアのLegAC – クールすぎる?

こんなに凄い新モデルをすべて自由に使えるので、私は、電気自動車 (EV) のキャビン形状の1つで試してみずにはいられませんでした。私たちが生きている電動化時代 (E時代) は、自動車エンジニアに数多くの非常に複雑な課題をもたらしています。 課題は、金魚鉢で泳ぐ落ち着きのないリチウムイオンの魂の扱いから目に見えないが耐え難い甲高のデーモン、そして最終的には、その最上位に位置する「熱力学の第一法則 (別名、エネルギー管理)」にまで及びます。

今日のEVがどれほど誇大宣伝され、派手で、マニアックな機能が満載であっても、すべてのEVはサイクル (バッテリーに蓄えられた1キロワット時の化学エネルギーが、(変換されるものがなくなるまで) 運動エネルギーと熱に変換される) を循環します。複数の調査 ( Buhmann他の調査など) が示すように、平均的な消費者のEV購入の決め手となる最も重要な仕様の1つは、「現実世界での航続距離」です。つまりOEMは、毎キロワット時の化学エネルギーを最大限に活用するために、できるだけスマートなエネルギー管理戦略を採用した車両を設計する必要があります。HVAC (暖房・換気・空調) は、乗員を快適な状態に保つために大量のエネルギーを消費する可能性があるため、キャビン快適性の調査は、この課題の鍵となっています。

私は、テキサス出張からインスピレーションを得て、最初の試みとして、定常状態の夏のシナリオ (外気温38°C – 100°F) を検討し、85%のファン速度 (質量流量0.04kg/s) で複数のHVAC温度 (16°C〜26°C) をシミュレーションしました。

太陽放射の影響と、通気孔からの強制対流は、Fialaの熱および体温調節モデルと、さまざまな快適性指数によって明確に捉えられます。このような条件下では、DTSとPPDから、「HVAC温度は、22°Cが全体的な快適性とエネルギー消費の最適な妥協点」であることが分かります。これは、「外気と空調空気の温度差が大きくなると、HVACのエネルギー・コストが増加する」という仮説に基づいています。

さらに、EHTモデルが提供する詳細な快適性ダイアグラムのおかげで、「足元吹き出しの位置と質量流量が、ドライバーの右足と下腿に顕著な不快感をもたらしている」ことをはっきりと確認できました。この一連のテストでは、私自身と、シミュレーションで使った無口なマネキン (私の友だち) には、実は共通点があることもわかりました。「心の状態」は、夏に空調を16°Cに設定してEVのキャビン (またはテキサスのオフィス) に座っていると、不快な状態になる可能性が非常に高いという事実と一致します。

冬がやってくる – 究極のバランス調整

これまでに、モデル (と私の友であるマネキン) を使って信頼性を確立できたので、私は、冬のシナリオを想定して、より複雑なケースを設定することにしました。

多くの調査 (Leonciniの調査など) から分るとおり、EVの車両熱管理システム (VTMS) にとって冬は非常に過酷です。キャビン温度を上げるために、大量の廃熱を活用できる内燃機関 (ICE) 車と比べると、EVは車両温度管理システム (VTMS) とバッテリーしか活用できません。さらに、温度が氷点下まで下がると、バッテリーパック自体の温度を上げて壊滅的な故障の可能性を回避しなければならず、さらに多くのエネルギーを消費する必要があります。Iora他は、冬には「キャビンとバッテリーの温度を上げるために補助電源を使うことで、車両の航続距離は最大で44%短くなる可能性がある」ことを突き止めました。Hao他が発表した、EV約200台の実データの詳細解析によると、雰囲気温度が10°C未満の場合「雰囲気温度が5°C変化するごとにバッテリーの電力消費量は2.3 kWh/100 km増加する」ことが分かりました。

こうした数字は、HVACエンジニアのバランス調整作業がいかに難しいかを如実に示しています。OEM各社は、この問題の快適性の部分を解決するために、従来の空調や熱くなったシート/ステアリング・ホイールを活用する解決策に加えて、放射熱パネルを戦略的に配置して活用する方法を模索しています。こうした電気ヒーターは、局所的な熱を供給して空調エネルギー消費を削減し、乗員の快適性を局所的にすばやく最適化することを目的としています (私の友だち (マネキン) の右ふくらはぎが非常に冷たかったことを覚えていますか?)。

このようなシナリオを再現するために、外気温が-15°C (5°F) で太陽熱負荷のないケースを設定します。最初のケースでは、空調 (27°Cに設定) の効果のみをテストしてから、熱くなったシート (50W)、熱くなったステアリング・ホイール (15W)、そして最後に輻射ヒートパネル (30W) を順次追加しました。

結論: 加熱するか、加熱しないか

全体としてデータが示しているのは、「E時代が、HVACエンジニアが夜も眠れないほどの複雑さをもたらしている」という事実です。EVの航続距離、熱快適性、バッテリー・パックの健全性、安全性、およびVTMSコストのバランスを取ることは、現在、世界中のOEMが解決すべき最も困難な課題の1つです。

好材料としてSimcenter STAR-CCM+ 2310の存在があります。Simcenter STAR-CCM+ 2310を使用すると、エンジニアは (HVAC だけでなく) これらの複雑な側面をすべて、完全に自動化可能な単一のワークフローに組み込むことができます。

その間に、「キャビンを暖かくしたいのか」それとも「家までたどり着ける可能性を高めたいのか」を賢く選んでください。HVACエンジニアも、私の無口な友だち (マネキン) も、あなたの判断を信じます。

キャビン熱快適性CFDシミュレーションから低次元化モデルを作成する機能など、その他の多くの新機能の詳細については、Simcenter STAR-CCM+ 2310リリース・ハイライトのブログをご覧ください。