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AD/ADASシステムの安全性確保: 膨大なデータに埋もれないための3つのポイント

執筆者 Eva Moysan

IVEX、David Boyker氏

自動車メーカーは、AD/ADASシステムの安全性を確保するために大量のデータを収集しなければなりません。自律システムを開発、検証、改良するには通常、さまざまな条件で何キロにもわたって繰り返し車両を走行させる必要があります。その後、さまざまなソース (カメラ、GPS、LiDAR、シミュレーションなど) から収集した走行ログを処理・解析して、システムの安全性とパフォーマンスの改善策を探ります。センサーの数やユースケースの数、走行する距離が増えればそれだけ、処理する情報量も飛躍的に増加する可能性があります。

処理する情報がこれだけ多いと、圧倒されてしまいます。収集した情報の多くは役に立たなかったり (何も起きないまま何キロも走行し続ける状況を想像してみてください)、途中、データの一部が欠けていたり壊れたりすることもあります。また、データの収集だけでは不十分であり、正しく管理、解釈、解析する必要があります。データプールが大きければ大きいほど、難易度とコストは上がる可能性があります。

データに埋もれることなく、データから最大限の利益を得るためには3つの基本原則があります。

  1. メトリクスとアルゴリズムを用いて重要な情報のみに焦点を絞る
  2. 包括的な視覚化ツールで情報を分かりやすく示す
  3. 拡張可能な適切なアーキテクチャを使用する

この3つの基本原則の詳細について、また、これら基本原則がIVEXとシーメンスのAD/ADASソリューションにどのように取り入れられているかを事例とともにご覧ください。

基本原則 1 – メトリクスとアルゴリズムを用いて重要な情報のみに焦点を絞る

最初の基本原則は、最も重要な情報のみを保持し、データプールを可能な限り小さくするというシンプルな原則です。コンテンツが少ないほど、処理と解析が高速になります。より小さなデータセットに焦点を絞ることで、ストレージ・コストやメンテナンスの負担も軽減します。

最初のデータプールを小さくするために、複数の有益な情報の塊、つまり「メトリクス」を作成し、より簡潔に分かりやすくデータを要約して説明します。メトリクスは、統計データや、イベント、シナリオなど、使用する目的や状況に応じて定義することができます。定義したこれらのメトリクスは、適切なアルゴリズムによって生成される必要があります。

メトリクスを作成してデータのサイズと複雑さを軽減する

新しい車両の安全性と快適性の向上に取り組んでいる会社があるとしましょう。具体的には、車両に危険な急ブレーキがかかり、乗員に不快感を与え、安全上の問題を引き起こしかねない状況を改善しようとしています。このような状況を特定するには、過去の走行ログを手作業で調べるのではなく、そのタスクを実行するアルゴリズムを開発する方が賢明です。アルゴリズムの例としては、走行測定データを反復的に処理し、車両の減速を計算し、定義した快適性の限界値を超えた時点にタグを付ける方法があります。さらに、他の車両までの距離といったパラメーターを計算させることで、急ブレーキが起きた理由も知ることができます。初期データにタグ付けできたら、そのデータに焦点を絞ります。

IVEXのシナリオの分類法について、また、これに関連する安全指標についてのシーメンスとIVEXによるホワイトペーパーは、以下のリソースをご覧ください。

基本原則 2 – 包括的な視覚化ツールで情報を分かりやすく示す

一つ目の基本原則を適用すると、最初の生データプールがいくつもの小さな重要コンテンツの塊に凝縮されます。これらのデータコンテンツは、新しい車両やセンサー、ソフトウェアの開発と検証に使えるように視覚化、解析、共有する必要があります。そのため、データコンテンツを強力な解析プラットフォームにつなげます。この一元化したプラットフォームで、選択したすべてのメトリクスを要約し、情報フローを制御することができます。視覚的に状況を解析する方法はさまざまです。例えば、危うく衝突が起きそうになった場所をマップ上で解析したり、急な割込みが起きた状況を時系列プロット上に抽出したり、カメラ画像上では見えなくなった物体を視覚化したりなどできます。また、視覚化は解析だけでなく、レポート生成にも役立ち、チーム間や関係者間で共有することができます。

これをさらに前述の安全性と快適性の例を使って具体的に説明します。走行ログのなかから急ブレーキが起きた状況をすべて特定できたら、それがどのように、そして最も重要なのは、なぜ起こったのかを調べます。1つの方法は、それが起きた場所を地図上で示し、急ブレーキした車両とその周囲の障害物に関するデータをプロットにして示します。その結果を関連チームに渡して、システムの改善に役立ててもらいます。

IVEX Hamiltonのインターフェースでシナリオ分類を視覚化
IVEX Hamiltonのインターフェースでシナリオ分類を視覚化

シーメンスとIVEXはどちらも、複雑な現実世界を視覚化、またはシミュレーションした走行ログを視覚化する優れたツールを提供しています。その一部を以下のページで紹介しています。

基本原則 3 – 拡張可能な適切なアーキテクチャを使用する

これまでの基本原則では、収集したデータを最大限に活用するために、データを有益なメトリクスに分類して凝縮し、そのデータを強力な解析ツールで示して視覚化し、共有する方法を説明しました。ただし、これが可能になるのは、最適なアーキテクチャがあってこそです。最適なアーキテクチャは、データを処理するパイプラインとして不可欠であり、各種のアルゴリズムやツールがスムーズに動作するためにも必要です。

大量のデータを収集・解析するための技術は、すでに多く存在しています。こうした技術がシーメンスとIVEXのソフトウェアのバックボーンとなって、データ・パイプラインのスムーズな拡張を支えています。Simcenter Prescanのスケーラブルなアーキテクチャを使用した分かりやすい例をこちらからご覧いただけます。

この3つの基本原則についての詳細について、また、走行ログを適切に処理することがいかにAD/ADASシステムの開発と検証に役立つかについては、シーメンスのウェブサイトまたはIVEXのメディア関連のページをご覧ください。安全性指標に関するシーメンスとIVEXのホワイトペーパーはこちらからアクセスできます。

多くの既存の技術とパラダイムを使用して、効率的でスケーラブルなデータ・パイプラインを築くことができます。ただし、適切な技術を選択することが重要です。
多くの既存の技術とパラダイムを使用して、効率的でスケーラブルなデータ・パイプラインを築くことができます。ただし、適切な技術を選択することが重要です。

IVEXについて

IVEXは、社会的に巨大な影響力を持つ、極めて困難で興味深い技術的問題に取り組む国際的なチームです。IVEXは、挙動計画、機能安全、車両エンジニアリングにおける独自のIPとチームの経験に基づいて、安全な自動運転車の開発を可能にしています。https://www.ivex.ai/