未来に向けて: 自動車開発にChatGPTとAIを組み合わせて活用する可能性を探る
2022年11月30日、ChatGPTがリリースされると、その受け止め方は人によってさまざまでした。AIの新時代の到来だとして、インターネットの利用や調べ物のあり方、コンテンツ開発に革命をもたらすものとして歓迎する人たちがある一方で、プライバシーの侵害や、人間の仕事を奪うもの、誤情報を蔓延させるものとして、深刻な懸念を抱く人もいました。
ChatGPTの使用が倫理に反しているかどうかについては激しい議論が交わされていますが、その基盤となる技術である大規模言語モデル (LLM) は、エンジニアリングの効率を向上させる大きな可能性を秘めています。最近、Simcenterエンジニアリング・サービス・チームは、車両開発にChatGPTがどの程度役立つかを探るために、テストすることを決めました。
AIを使って車両の乗り心地や操舵性を調整
車両の乗り心地や操舵性を最適化することは、開発プロセスのなかでも複雑で時間のかかる作業です。どこか1つを変更すると、他のコンポーネントのパフォーマンスにも影響を与えるため、広範なテストとパラメーター調整が必要になります。従来の方法は、乗り心地や操舵性に対する主観的な感覚をまず数値化してから、シミュレーション・ツールを使用して、その数値化した感覚を調整し、改良していました。しかし、この方法は必ずしも効率的だとは言えません。感じ方は人によってそれぞれ異なり、単純に測定できるものではないため、客観的な数値として表すことは困難です。
一方、ユーザーが自動車の運転中に、感じたことをその場で自然に口に出して発する言葉は、製品に対する感想を最も自然な形で表したものだと言えます。LLM、特にChatGPTの最近の進歩により、このように自然に発する言葉を処理することが可能になりました。シーメンスのエンジニアリング・チームは、ChatGPTをシステム・シミュレーションと組み合わせることで、主観的なフィードバックをもとに自動車の乗り心地や操舵性を改善できるかどうかを探ることにしました。

AI、ChatGPT、Simcenter Amesimを組み合わせる
このプロジェクトで中心的な役割を担うのが、Simcenterエンジニアリング・サービス・チームが開発したAIアシスタントです。このAIアシスタントは、Reinforcement Learning with Human Feedback (RLHF: 人間のフィードバックに基づく強化学習) の技術を駆使して、製品と人間に関する情報を取得し、製品の修正案を生成する極めて重要な役割を果たします。ChatGPTを「翻訳者」として利用しながら、人間とAIの橋渡し役をします。
このケースでは、製品である自動車をSimcenter Amesimのビークル・ダイナミクス・モデルで再現し、Simcenter Prescanを使って周囲環境をビジュアル化しながら、ドライビング・シミュレーターを使って車両を運転します。バックグラウンドで稼働するAIアシスタントが、ドライバーの好みや、車両パラメーターの変化に対するドライバーの主観的な知覚や反応を絶えず学習し続けます。その仕組みを以下の動画で示しています。
Simcenterエンジニアリング・サービス・チームが開発した技術を使用して、テスト・エンジニアはドライビング・シミュレーターで運転を操作します。
具体的な仕組み
ドライバーは運転操作中に体験した感想を声に出してフィードバックします。音声入力はテキストに変換され、ChatGPTに伝達され解析に使用されます。背景知識および必要な情報を与えられたChatGPTは、ドライバーが口から発する感想をもとに、特定の問題 (横揺れや縦揺れなど) とその程度や状態 (激しい、非常に激しい、あまり感じない) など、重要な要素を取り出し、ドライバーの感情的な反応を理解します。不明瞭な点がある場合は、必要な情報が明らかになるまでChatGPTがドライバーと対話を続けます。必要な情報を得られたら、RLHF (人間のフィードバックに基づく強化学習) ベースのAIアシスタントはシステム・パラメーター・セットで変更すべき点を生成します。

ChatGPTとSimcenterの組み合わせを応用できる例
このプロジェクトは、主に自動車の乗り心地と操舵性を調整して改善することに焦点を当てていますが、この技術は他にも製品開発のさまざまな場面に応用できます。
テスト・エンジニアであれば、テスト・ドライバーの音声コマンドをもとに、主観的なフィードバックを収集し、特定の事象に修正を加えることができます。また、シミュレーション・エンジニアであれば、ユーザーのフィードバックをもとにソフトウェアの不満を改善できます。シーメンスのエンジニアリング・チームが開発したこの技術によって、主観的な意見や感覚を必要とする車両エンジニアリングのほぼすべての分野で強化および最適化が可能になります。
ChatGPTの利用をめぐっては賛否両論ありますが、エンジニアリング・チームはまたとない機会を得ることができます。つまり、ChatGPTを使って、明確に表現するのが難しい、人によって異なる主観的な感覚を、測定可能な具体的かつ客観的なパラメーターに簡単に変換して調整できるため、ドライバーの車両操作性の改善につなげることができます。問題は、どの企業がこの技術を最初に実用化するかです。
Simcenterエンジニアリング・サービス・チームは、世界中の何百名もの優秀なエンジニアで構成されています。シーメンスのシミュレーション製品にChatGPTを率先して取り入れているチームメンバーを以下に紹介します。
ポッドキャスト「エンジニア・イノベーション」で、YerlanとSarahがこのプロジェクトについて語っている内容を聞くには、こちらをクリックしてください。
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