Simcenterを使用したMBSE: AIの台頭は、コンピューターが人間より賢く、速くなってきた長い物語の最新の章にすぎません。最大限に活用しましょう!

ついにこの日が来ました。人間がコンピューター・プログラムによって出し抜かれる危険性があるという生々しい感覚を、人々が共有するようになったのです。
しかし、現実には、この瞬間は何年もの間、私たちに近寄ってきていたのです。コンピューターは、多くのことにおいて常に人間よりも優れていました。一貫性、厳格さ、ハードワークへの果てしない欲求など、コンピューターは多くの点で人間を上回り、追い越しています。
1996年を覚えていますか?
理解できる年齢だった人たちの多くが、コンピューターは退屈で反復的なタスクを、人間よりもはるかにうまく実行できると初めて気付いたのは、その頃のことです。
1996年の最先端テクノロジーで、ディープブルーというチェス専用コンピューターがトーナメント条件下で当時の世界チャンピオンを打ち負かしたのです。これは強い印象を残しました。
しかし、その当時は未来的と思われていたチェス専用コンピューター、ディープブルーは当然ながら、すべてのITハードウェアとソフトウェアと同じ運命をたどりました。カスパロフが2016年に語ったように。
今では、ラップトップ用のチェスエンジンを購入し、ディープブルーをあっけなく負かすことができます
ガルリ・カスパロフ
ディープブルー以降の26年間で、コンピューターはチェスで人間に勝てる力を持つだけでなく、言語、スタイル、さらには芸術の領域にまで侵入し始め、その進歩はあの不快な感覚を生むまでになりました。
人間と機械、最終的に勝つのはどちらか?
多くの人は、どちらか一方である必要はないと考えています (映画業界には申し訳ないですが)。実際、カスパロフの頭の中では、人間とコンピューターの組み合わせこそが真に無敵なのです。
(チェスでコンピューターと戦うときに) 重要なのは、何時間も高品質の手を指す能力です。人間の心理は私たちに不利に働きます。たとえ非常に弱いコンピューターであっても、私の横に置いておければ、形勢は逆転し、私や強いグランドマスターは非常に強力なコンピューターを打ち負かすことができるでしょう。コンピューターと対戦する際の人間の弱さの根源である、不注意による失敗を、自分のコンピューターを利用して確実に排除できるからです。だからこそ、私は力を合わせるという考えを提唱しています。
ガルリ・カスパロフ
ここでカスパロフは、人間の競技者がコンピューターを使用して自分のチェスを強化する、「アドバンスト・チェス」というアイデアに言及しています。人間とコンピューターが互いに補完し合い、高め合うという考えは、ジェネレーティブ・エンジニアリングや、MBSE、MDAOのための高度なCAEツールで、シーメンスが目指すものとまさに同じです。
アドバンスト・チェスからアドバンスト・エンジニアリングへ
テクノロジーの発展に伴い、エンジニアリング・シミュレーションの価値は、意思決定への「情報提供」から意思決定を「導くもの」へと変化しています。そして、この変化はますます強力になっています。例えば、AIを活用したジェネレーティブ・エンジニアリング・ツールであるSimcenter Studioは、設計初期の概念段階でシステム・アーキテクチャを探索し、理解するのに役立ちます。
Simcenterの主な強みは、非常に短時間で多数の設計の方向性を探索する能力があり、簡単なブレイン・ストーミングでは人間が思いつかないような革新的な新しいソリューションやアイデアを見つけることによって、いわゆるデザイン固着を回避できるところです。
数日間を数時間へ、数時間を数分へ、数分を数秒へ
2023年4月にリリースされたSimcenterのMBSEツールセットは、新次元の高速化を実現しました。
- インテリジェントなエラー検出とサポート機能を備えたモデル作成ワークフローが4倍に高速化
- アーキテクチャを生成するソルバー速度が20倍向上
- 最適なコントローラー生成が200倍に高速化
この半年間の進歩としては、決して悪くありません。上記の数値は、いくつかのサンプル事例から取られています。通常、お客様によって効果は異なりますが、以前は数日かかっていたものが数時間で完了します。そして、何時間もかかっていたものが、数分で終わります。おわかりのように、このような大幅なスピードアップによって、エンジニアリングの目標を迅速かつ簡単に達成できるようになるでしょう。
SysML v2.0エンジンを高速化
もう1つ継続的な開発が行われたのは、SysML v2がサポートする、最新のMBSE手法の有効化です。このリリースでは、Simcenter StudioのSysML v2エンジンがアップグレードされ、SysML v2ライブラリをインポートしてモデルをより簡単に処理できるようになったほか、バックエンドとAPIの大幅な改善も行われています。
上のビデオでは、ARCADIAライブラリをインポートし、 ARCADIA手法を使用してモデルを作成するプロセスを確認できます。 今回の新機能で重要な部分は、ARCADIA手法をライブラリとしてインポートできることです。実は、これはSysML v2.0で実装可能な、どの手法でも利用できます。インポートしたライブラリは、ジェネレーティブ・エンジニアリング・プロセスで直接使用し、コンピューティング機能によってモデルを評価できます。
点から線へ
デジタル製品開発の利点の1つは、設計が要件を満たしていない場合に、すぐに修正および更新できることです。
しかし、複雑な製品開発プロセスにMBSE手法を導入する際に避けられない課題の1つが、性能目標の「全体像」を維持できるかということです。言い換えれば、各サブシステムがシミュレーション・モデルとデータの個別のセットとして存在する場合に、全体的な性能目標に対して実際はどうかを把握することです。
設計を完全なシステムとして実現するには、多数のシミュレーションを連成解析する必要があります。これは従来、シミュレーション・チームにとって大きな壁でしたが、Simcenterでは容易に実行できるようになりました。

インポート・オプションが増加、モデリング・エクスペリエンスが向上、離散変数をサポート
Simcenter MBSEツールの最新リリースでは、業界をリードするコ・シミュレーション・プラットフォームであるSimcenter System Architectに多くの機能強化が加えられました。
モジュール性の強化
システム・アーキテクチャのコ・シミュレーションによって継続的な性能目標を設定、達成するうえで、すべてのレベルをモジュール化することが重要です。そのため、Simcenter System Architectでは、SimulinkおよびSimcenter Amesimのモデルを、これまでのライブラリを使ったインポートに加えて、直接インポートできるようにしました。これにより、新たなレベルの柔軟性が実現し、モデル設定が加速されます。
未接続ポートの処理
Simcenter System Architectのもう1つの基本原則は、完全に異種のモデルをシームレスに統合できることです。接続されたサブモデルの入力ポートと出力ポートの間で、特にモデルの忠実度が異なる場合に、不一致が発生することがあります。これはもはや致命的な問題ではありません。未接続ポートの処理は、適切なソース項を割り当てるだけでよくなりました。
連続信号と離散信号の組み合わせ
サイバーフィジカル・システムを正しくモデル化するには、連続的な信号や変数 (速度、回転数、出力など) と離散的な信号や変数 (ギアの選択、制御スイッチの位置など) を扱う必要があります。これまでもSimcenter System Architectでは、これらを扱うことが可能でしたが、使用するモデルによっては、不安定性など、モデリングに不正確さが生じる可能性がありました。
Simcenter System Architect 2304では、すべての変数が連続変数または離散変数として定義され、コ・シミュレーション・エンジンによって適切に処理されるようになりました。この機能強化により、プロセスがさらにスムーズになり、エンジニアリングに費やせる時間が増えます。
人間と機械は力を合わせた方がよい
このブログでは、Simcenter StudioとSimcenter System Architect (バージョン2304) の最新リリースをチェックするべき主な理由を解説しました。このように、Simcenterは急速に成長を続け、未来のエンジニアリング課題に取り組むお客様に、常にMBSEの最先端をお届けし、人間と機械の強力な組み合わせとなれるようにしています。
…というわけで、コンピューターがすぐに私たちエンジニアの代わりになるわけではありませんから、心配は無用です。最後に、インドのチェスのグランドマスター、ヴィスワナータン・アーナンドの言葉をお伝えします。
われわれは一般的に、試合におけるコンピューターの重要性を過大評価しがちです。コンピューターにできることは多いとはいえ、よいチェスを指さなければならないのは人間なのです。
ヴィスワナータン・アーナンド