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MBSEで車両システムズ・エンジニアリングのイノベーションを解き放つ 

執筆者 Vijay Singh

モデルベース・システム・エンジニアリング (MBSE) は、急速に発展しているEV市場における、急増する車両システムズ・エンジニアリングの複雑さを管理するツールを提供します。 

MBSEを使用した車両システムズ・エンジニアリング

電動パワートレインへの移行により、自動車業界はかつてないほどの速さで変化しています。その結果、製品とプロセスがこれまでにないほど複雑になっています。 

さらに、より多くのメーカーが市場に参入し、消費者がブランドを超えて電気自動車の機能やユーザー・エクスペリエンスに注目するにつれて、より迅速なイノベーションとコスト削減を求める圧力がますます高まっています。  

この新たな課題に対応するには、製品開発に対する新たなアプローチが必要です。これは、競争力、俊敏性、費用対効果を維持しながら、品質、規制の強化、持続可能性の要求を満たすツールをメーカーに提供するアプローチです。 

最近、弊社の専門家Vijay Singhが、品質、規制の強化、持続可能性、コストなどの課題に取り組みながら、競争力、俊敏性、費用対効果を維持するためにMBSEを導入する方法についてウェビナーを開催しました。彼は、課題を克服し、要件から設計、解析、検証、妥当性確認まで、要件のデジタル・スレッドをモデリング環境に留める方法について説明しました。詳細については、ウェビナー: 「システムズ・エンジニアリング・アプローチを用いた自動車産業の複雑さへの対処」に登録してご確認ください。 

MBSEが自動車工学への新しい機能的アプローチを実現 

MBSEは、従来のドキュメントを中心としたチーム間の情報交換ではなく、車両開発のライフサイクルを通して、エンジニアリング領域間や関係者間の情報の伝達と交換の主な手段として、モデルを使用します。 

これにより、初期要件から、設計、最終検証、ライフサイクル後半のすべてをサポートし、追跡することができます。MBSEは、開発プロセス全体を通した1つのデジタル・スレッドを作成することで、これを実現します。 

重要な点は、MBSE主導のデジタル・スレッドにより、メーカーは車両システムズ・エンジニアリングを別の方法で検討し、製品開発において機能的で包括的なアプローチを採用できるということです。つまり、その背後にある機械システムではなく、求める機能に重点的に取り組むことができるのです。これにより、メーカーは、システムを更新して継続的に改善できる、真のソフトウェア定義型車両を開発できます。 

設計プロセスの初期段階でのアーキテクチャの検討 

製品定義では、詳細な要件と、電気駆動システムのあらゆる側面を表したシステム・アーキテクチャ・モデルを作成します。電気駆動システムのアーキテクチャは、開発プロセス全体の基礎となります。このアーキテクチャにより、システムの構造とコンポーネント間の関係性が定義されます。 

電気駆動アーキテクチャを設計の初期段階で検討することにより、定義された要件、制約、性能目標を満たす、インバーター、モーター、ギアボックスのあらゆる組み合わせを評価することができます。このプロセスによって、最適かつ効率的に動作する電動ドライブ・システムを設計し、優れた最終製品を開発することができます。 

電気駆動システムの例を説明します。このシステムでは、誘導モーターや永久磁石モーターなど、さまざまな種類の電気モーターを使用できます。設計プロセスの初期段階で、適切なコンセプトを選択することが重要です。誤った判断をした場合、開発ライフサイクルの後半に大幅なやり直しが必要になる可能性があります。やり直しが発生すると、当初の計画よりも開発スケジュールが長引き、最終的にコストが増大し、製品の発売が遅れる可能性があります。 

電動ドライブ・システムのアーキテクチャの検討を進めるために、多くのメーカーがSimcenter™ Amesim™ ソフトウェアとSimcenter Studioの機能を活用しています。これらのソフトウェア・ツールは、クラス最高レベルのシステム・シミュレーションを組み合わせ、電気駆動アーキテクチャのオプションを検討する強力なプラットフォームを提供します。エンジニアは、効率、熱性能、騒音、振動、コスト、重量などの要素を含めた、各アーキテクチャのオプションの性能をシミュレートすることができます。 

さらに、Simcenter統合環境からMBSEを実装することで、人工知能 (AI) を利用して設計空間を大幅に拡張できます。AIを利用することで、1つのシステム・アーキテクチャ・モデルから何十、何百もの潜在的な電気駆動アーキテクチャを評価することができます。 

アーキテクチャの検討のためにSimcenter Studioで設定された基本的なアーキテクチャ・モデル
アーキテクチャの検討のためにSimcenter Studioで設定された基本的なアーキテクチャ・モデル

MBSEとSimcenterのツールを使用して電動ドライブ・システムを最適化する方法については、ホワイトペーパー「自動車開発でのMBSEの導入」をご確認ください。 

開発下流プロセスにアーキテクチャを接続する 

最適なアーキテクチャが決定したら、同じモデルを使用して、すべての製品と下流の関係を定義します。これにより、開発プロセス、変更、構成、ワークフロー、バリエーションなどを通じて、すべてのアーティファクトを管理、制御できます。 

MBSEアプローチは、さまざまなエンジニアリング領域で必要な多様なモデルやシミュレーション・ツールを統合する、堅牢なフレームワークを提供します。モデルはさまざまなアプリケーションで再利用され、要件の変更などの影響を開発チェーン全体で効果的に管理できます。  

システム・アーキテクチャ側での作業はすべて、設定した要件によって自動的に通知され、反映されます。また、パラメーター管理側での作業は、シミュレーション・ワークフローとエンジニアリング・ワークフローに自動的に統合されます。 

ジェネレーティブ・エンジニアリングをEVアーキテクチャの検討で活用する方法については、Charged EVsの記事をご確認ください。

車両システムズ・エンジニアリングとデジタル・スレッドで強化された統合ワークフロー 

MBSEのデジタル・スレッドは、製品開発のさまざまなフェーズ間で情報とデータのシームレスな流れを実現します。そのため、シミュレーション・エンジニアは必要なときにいつでもデータを利用して、結果をシステムに戻し、シミュレーションの出力でパラメーターを更新できます。  

これにより、製品ライフサイクル全体を通してコラボレーションが向上して作業効率が高まり、開発時間が短縮されてパフォーマンスが向上します。 

例えば、SimcenterソリューションでHEEDS™ ソフトウェア・ワークフロー・マネージャーの機能を使用し、Teamcenter® シミュレーション・ソフトウェアと連携してシステム・アーキテクチャ、要件、パラメーターとSimcenter 3DまたはSimcenter Motorsolveソフトウェアのシミュレーション・ワークフローをシームレスに統合できます。 

TeamcenterとSimcenterによって完全に統合されたMBSEワークフローのビデオ

最適化と再利用可能なワークフロー 

MBSEとデジタル・スレッドを使用することで、要件から開発までのデジタル継続性を確保し、会社全体のエンジニアリング領域を最終製品に結び付けることができます。 

しかし、車両システムズ・エンジニアリングは、単一の段階的なプロセスではありません。これは非常に再帰的で反復的なプロセスであり、連続ループの1つです。MBSEとSimcenterのツールは、再利用可能なワークフローを実現することにより、設計の最適化と継続的なパフォーマンス・ターゲティングの堅牢で再現性のあるプロセスを提供し、この複雑で反復的なプロセスを効率的に管理します。  

何らかの処理を実行して記録すると、ほぼ自動的に実行できるプロセスとして使用できるようになります。そのため、ビジネスニーズやその他のパラメーターが変化しても、エンジニアリングの専門家や技術者の協力を得ることなく、テストや解析を再度実行できます。  

これにより、開発時間とコストが大幅に節約され、イノベーションと車両の最適化の新たな機会が開かれます。 

エンジニアリング領域の再接続 

EV市場が成長するにつれて、顧客は単に電気自動車を求めるだけでなく、耐久性、ドライビング・ダイナミクス、騒音と振動、走行距離など品質、性能、コストについても重視しています。  

市場の期待に応えるEVの開発に必要な部門・領域横断的なシステムズ・エンジニアリングを実現するには、従来の開発サイロから脱却する必要があります。  

MBSEとデジタルツインを使用した、再利用可能な統合ワークフローによるコネクテッド・エンジニアリング・アプローチのみが、製品だけでなく開発プロセスにおいても、急増する電気自動車エンジニアリングの複雑さを管理するツールチェーンをメーカーに提供できます。