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アディティブ・マニュファクチャリングにおける疲労の課題: シミュレーション・ベースのアプローチ

執筆者 Els Verlinden

アディティブ・マニュファクチャリング: より良い製品づくりを支える産業

アディティブ・マニュファクチャリング (AM) は、3Dプリンティングとも呼ばれ、必要な材料のみを使用して、複雑な部品を層ごとに製造することができます。これは、大量の材料から不要な材料を取り除くサブトラクティブ・マニュファクチャリング (減法製造) とは逆の方法です。AMは、設計の自由度が高く、材料の無駄が少なく、直接3Dプリントできるため、3D構造を設計した後のリードタイムが短いという利点があります。さまざまなプロセスを使用する金属やポリマーに適しています。ここでは、金属合金のAMにおける疲労の課題への対処に焦点を当てます。

金属AMプロセスは、さまざまな表面粗さ、多孔性、微細構造など、プリントされた構造に局所的な造形片を生む可能性があります。これらの局所的な造形片の発生と原因の制御はまだ十分に理解されておらず、プロセスの種類によって異なります。さらに、AMプロセスによって誘発されるこのような局所的な造形片の影響を説明できる、複雑な動的性能の予測品質を備えたCAEツールが不足しています。そのため、業界 (自動車、航空宇宙、機械業界など) は、費用のかかるプロトタイプ試験に頼らざるを得ないことが多く、その結果を利用できるのは、製品開発プロセスの非常に遅い段階になります。

シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアは、材料構造の理解を深め、プリント製品の性能を予測し、最適化するシミュレーションベースのソリューションを提供しています。AMが概念設計研究から機能部品のプリントに移行していることから、シミュレーションは、性能 (耐久性、構造健全性など) 面においてとりわけ重要です。このブログ記事では、耐久性能属性について説明します。また、自動車の耐久性に関するWebサイトもご覧ください。

アディティブ・マニュファクチャリングにおける疲労の課題

いくつかのAMプロセス要因が、誘発される疲労性能に影響を与えます。AMプロセスは、従来の製造プロセスよりも制御が緩く、プロセスに誘発され疲労に影響を与える造形片が生じます。これらの疲労に影響を与える造形片は、形状に大きく依存するため、局所的な性質を示します。

これらすべてが、AM材料の疲労性能の予測を困難にしています。アディティブ・マニュファクチャリングにおける疲労の課題を図1に示します。疲労性能の主な影響要因は、微細構造、多孔性、表面粗さ、残留応力です。プリント製品の疲労寿命は、常に複数の局所的な要因による複合的な影響の結果です。これらの要因をプリントされた部品で分離することはできず、これらの要因の相互作用と分離された影響を説明する1つの数学的モデルを持つこともできません [1]。

アディティブ・マニュファクチャリングにおける疲労の課題:  3Dプリント構造物の疲労要因
図1 AMの大きな課題は、3Dプリントされた構造物の疲労寿命がいくつかの要因に影響されることです。

前述のように、AMでは複雑なジオメトリの生成が可能であり、多くの場合、図1に示すようなトポロジー最適化形状から生じます。3Dプリントされた部品の品質は、いくつかのAMプロセスと設計関連の側面に依存します。

3Dプリントされた部品の表面粗さ

例えば、ビルド方向は、プリントされた形状のさまざまな表面の向きに暗黙的に影響します。3Dプリントされた部品の表面粗さは、オーバーハング角度 (ビルドプレート平面 (x-y) とx-z (またはy-z) 平面のオーバーハング面の接線との角度) にも依存するため、ビルドトレイ内の部品の向きが異なると、表面粗さの分布が異なります。ビルドスペースの使用を最適化し、ビルドで同じ部品の複数のインスタンスを異なる向きでスタックすると、1回のショットでできるだけ多くの部品を生成することができます。

複数の部品の方向を異なる方法で合わせると、表面粗さ、多孔性、局所的な微細構造の分布が異なる部品になります。図2は、表面粗さについても同じことを示しています。

オーバーハング角度の関数としての表面粗さ
図2: 自動フィーチャー抽出: Simcenter 3Dのオーバーハング角度の関数としての表面粗さ

セーフティクリティカルな耐荷重部品の3Dプリンティング

表面粗さは疲労の主な影響要因であるため、同じ形状を持ち、同じ機械で同じ材料から製造された場合でも、部品によって耐疲労性は異なります。

さらに、AMプロセス中の部品の残留応力や、製造プロセス後に適用されるさまざまな熱処理も、部品の疲労性能に影響を与えます。

セーフティクリティカルな耐荷重部品の3Dプリンティングを可能にするには、AMによって誘発される局所的な造形片が、製造部品の疲労寿命に与える影響を予測できることが不可欠です。局所的な造形片を予測することは、これを実現するための一部分にすぎません。また、AMによって誘発される局所的な造形片が、3Dプリント材料の耐疲労性に与える影響を直接評価する手段も必要です。さらに、局所的な疲労に影響を与える造形片を、効率的に処理できる耐久性ソルバーが必要です。次の段落では、これらの側面について詳しく説明します。

機械学習を使用して、アディティブ・マニュファクチャリング構造物の疲労性能を正確に予測

3Dプリントされた材料の疲労性能は、製造プロセスと使用される材料、形状と荷重条件、微細構造、残留応力、表面粗さ、多孔性、ポスト処理 (表面処理と体積処理) など、いくつかの側面に依存します。材料の疲労性能を特性評価する場合、通常、サンプルの形状、製造プロセス、および荷重関連のパラメーターは一定です。その後、残りのパラメーターの影響が評価されます。しかし、AMの場合、多くの条件が互いに密接に関連しています。例えば、造形方向は、(層ごとの堆積は金属粒子の特定の成長経路に有利になるため) サンプルの表面粗さや微細構造に暗黙的に影響を与えます。

前の段落で述べたように、3Dプリントされた複雑な部品には、これらの要因の多くの組み合わせが存在し、疲労性能を正確に評価するには、疲労に影響を与える要因のすべての組み合わせに関するデータが必要です。つまり、3Dプリントされた材料の疲労性能に対する特性評価は、必然的に、できるだけ多くの要因の組み合わせに対応する大規模な試験になります。また、未試験の組み合わせについても評価を下し、可能にするモデルを導き出すという大きな課題も生じます。

疲労性能評価の新しいアプローチ

シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア (DI SW) は、機械学習の力を活用して3Dプリントされた部品の疲労性能を評価する新しいアプローチを開発しました [2][3]。

図2の部品の例では、この3Dプリントされた部品の疲労性能を正確に予測するには、AMによって誘発される局所的な造形片が材料の疲労特性に与える影響を予測できる材料モデルが必要です。トレーニング・データ・セットは限定的ながら、機械学習 (ML) ベースの材料モデルが開発されています。このMLモデルは、一連の異なる条件 (ビルド内の向き、さまざまな表面処理、熱処理など) に対して実験的に決定されたSN曲線 (ヴェーラー曲線) の多属性空間に適合し、未試験の条件の組み合わせのSN曲線を予測できます。ML材料モデルは、オープンな耐久性ソルバー環境にAMエンハンスメント・モジュールとして統合されており、AMによって誘発され局所的な疲労に影響を与える要因の影響を考慮しています [4]。

MLアルゴリズムのトレーニングに必要な実験データは、出典 [2] に記載の実験装置と試験手順で生成されています。これには、一定の処理パラメータに従って3D Systemsがプリントした試験片が含まれています。KU Leuvenの製造プロセス・システム (MAPS) 部門が、Instron ElectroPuls E10000を使用し、さまざまな表面処理と熱処理を考慮して疲労試験を実施しました [5]。AM部品の疲労試験のコストを考慮すると、考えられるすべてのパラメーターの組み合わせを試験することは非現実的です。

ガウス過程回帰アプローチ

また、クーポンレベルの試験では、例えば、薄肉断面内や内部空洞の近くで可能性のあるすべての条件を再現できるとは限りません。したがって、最小限の試験結果に基づいて多数の造形片の疲労特性を推定する方法が必要です。そのために機械学習 (ML) が採用されており、いわゆるガウス過程回帰を使用しています。このアプローチが、より古典的な内挿/外挿アプローチよりも優れている点は、試験データを近似させるための推定が最小限で済むことです。異なるパラメーター間の複雑な相互作用と、校正に利用できるデータが限られていることを考えた場合、これは重要です。

Simcenter 3D Specialist Durabilityの既存の耐久性ソルバーは、MLアプローチをサポートするように拡張されました。疲労特性に影響を与える入力は、領域または要素ごとに定義できます。さらに、ファイルから入力したり、図2に示すように、各要素に疲労関連パラメータを割り当てる自動ツールを使用して入力することもできます。

ワークフロー

図3は、ワークフローの概略図です。AMによって誘発される疲労に影響を与える要素と、それらが3Dプリントされた材料の局所的な疲労特性に与える影響を効率的に結びつけ、AM拡張耐久性ソリューションを実現します。左側には、予測された局所的な造形片を入力として受け取り、推定された局所的なSN曲線を耐久性ソルバーに返すMLアプローチが示されています。右側には、FE解析 (結果は示していない) に必要なCADモデル (1) と、MLモデル (3) の入力として必要となる、AMによって誘発され局所的な疲労に影響を与える要因を予測する自動フィーチャ抽出ツール (2) が示されています。その後、AM拡張耐久性シミュレーションを実行できます。ユーザー定義の荷重は、この図には含まれていません。

AM部品の耐久性計算のワークフロー概略図
図3: 機械学習で強化されたAM部品の疲労解析をSimcenter 3Dで実行できます。AM部品の耐久性計算のワークフローを概略図で示し、機械学習拡張機能を使用して材料特性を予測します。

上記のワークフローにより、ユーザーは、ビルドトレイ内の部品の向きが疲労性能に与える影響などを評価できます。ビルドトレイに同じ部品の複数のインスタンスがあり、向きが異なる上記のケースでは、図3に示すアプローチを使用して、部品の選択したビルド方向の局所的な表面粗さを予測できます。表面粗さはモデル内の要素ごとに利用可能であり、選択した材料の熱処理などの他の関連パラメータとともにML材料モデルに渡されます。

ML材料モデルを使用して、局所的な疲労に影響を与える要因に従って、CADジオメトリ・モデルに対応する構造メッシュの各サーフェス要素でローカルSN曲線を導き出します。Simcenter 3D Specialist DurabilityのAM拡張ソリューションを使用して、プリント部品全体の耐久性能を計算します。これにより、局所的な材料特性の効率的な処理とモデルへの局所的なSN曲線のマッピングという2つの新しく非常に重要なフィーチャを含む、局所的な条件に従った構造全体の損傷蓄積が実行されます。この仮想アプローチにより、限定的な試験セットとともに機械学習を用いることで、何千まではいかなくとも何百もの試験が不要になり、未試験の条件で内挿/外挿が可能なモデルが実現します。

結果と展望

機械学習を適用して、AM部品の疲労寿命性能をより正確にモデル化することには、いくつかの利点があります。まず、さまざまな造形片の組み合わせが疲労寿命にどのように影響するかについて推論する必要がありません。さらに、このアプローチは柔軟性があり、局所的な現象を考慮し、限られた試験しか必要とせず、正確な外挿を可能にし、さまざまな要因の影響を (実験データに基づく実現が不可能な場合が多い) 非結合的な方法で研究することができます。

図4は、モデルを検証するためのブラインド・テストの結果を示しています。このMLアルゴリズムは、さまざまな要因の組み合わせに対応し、実験的に得られたSN曲線のサブセットを使用してトレーニングされています。一部の組み合わせは、トレーニング・セットから差し引かれています。具体的には、機械加工され熱間等方圧加圧 (HIP) 処理に送られた90度配向試料の場合と、機械加工された50度配向完全焼鈍 (FA) および熱間等方圧加圧された試料の場合です。図4の赤い実線は、前述の未確認ケースの予測SN曲線と、それらに対応する信頼区間 (破線) を示しています。実際の試験結果は、写真の青色の円で示されている予測値の上にプロットされています。これは、予測値と実際の測定値との良好な相関関係を示しています。

AM部品の疲労寿命を予測する機械学習の結果
図4: 結果: 局所的な材料特性を考慮したAM部品の疲労寿命を予測する機械学習

Simcenter 3D Specialist DurabilityのAM拡張耐久性シミュレーションは、実験データと物理ベースのモデリングの両方の長所を兼ね備えています。また、実験データやシミュレーション・データのみを使用することも可能です。Simcenter 3D Specialist Durability SolverのOpen Solverテクノロジーを活用することで、構造物の耐久性能を計算し、このブログ記事に示すように疲労に影響を与える主な要因である表面粗さやその他の局所的な現象 (ボイドの多い領域、残留応力など) を考慮して、カスタマイズされた耐久性解析を実行できます。ゲント大学が開発した方法に基づく、マルチスケール・モデリングに依存する疲労性能/SN曲線の予測などの研究が進行中です [6]。

このブログ記事では、AM部品の疲労の課題に対する新しいソリューションにスポットライトを当てています。シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアは、視野を広げ、さまざまな性能属性 (強度、剛性、疲労寿命など) にわたるAM材料の予測シミュレーション機能に取り組んでおり、AMの予測CAEツールチェーンの導入を目指しています。詳細については、このリンクの記事を参照してください。研究開発プロジェクトFATAMの一環として、AM材料の疲労性能を予測する新しいシミュレーション手法が開発されています。FATAMの詳細については、以前のブログ記事をご覧ください。 

詳しくは、ホワイトペーパーをご覧ください。

ぜひ、ホワイトペーパー「Simcenter 3Dを使用したアディティブ・マニュファクチャリングの疲労寿命の予測」をご覧ください。このホワイトペーパーは、機械学習を使用して局所的な疲労特性を予測し、Simcenter 3Dで耐久性を計算するための重要な一歩となります。また、メーカーが耐久性のある部品をより迅速かつ安価にプリントできる新しい戦略も提示しています。 

謝辞

著者らは、シーメンス (シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア、ベルギー) が共同し、SIM (FlandersのStrategic Initiative Materials、こちらを参照) とVLAIO (フランデレン地域政府機関Flanders Innovation & Entrepreneurship、こちらを参照) が資金提供するMacroModelMat (M3) 研究プログラムに適合する、IBOプロジェクトFATAM (「アディティブ・マニュファクチャリング部品 – 金属AM部品の長期的な動的性能に関連するAMプロセス条件」、2017-2020年) に感謝の意を表明します。 

参考文献

[1] H. Erdelyi, “ML-enhanced Fatigue Analysis of AM Components”, Formnext 2019, Frankfurt, Germany, November 19-22, 2019.
[2] N. Lammens, H. Erdelyi, T. Craeghs, B. Van Hooreweder, W. Van Paepegem, “Effect of process induced artifacts on the fatigue life estimation of additive manufactured metal components”, ESIAM19, Trondheim, Norway, September 9-11, 2019.
[3] M. Schultz, N. Lammens, M. Hack, H. Erdelyi, “Machine Learning Enhanced Durability Analysis of Additively Manufactured Lightweight Components”, NAFEMS Nordic Seminar, CAE in support of Sustainability and Durability, Billund, Denmark, Nov. 25-26, 2019.
[4] N. Lammens, M. Schulz, M. Hack, H. Erdelyi, “Local Fatigue Parameter Prediction of Additively Manufactured Components using Machine Learning”, Fatigue 2020, Downing College, Cambridge, UK, June 29 – July 1, 2020.
[5] C. Elangeswaran, A. Cutolo, G.K.Muralidharan, C. de Formanoir, F. Berto, K. Vanmeensel, B. Van Hooreweder, “Effect of post-treatments on the fatigue behaviour of 316L stainless steel manufactured by laser powder bed fusion”, International Journal of Fatigue, Vol. 123, pp. 31-39, 2019.
[6] T.D.Dinh, J. Vanwalleghem, H. Xiang, H. Erdelyi, T. Craeghs, W. Van Paepegem, “A unified approach to model the effect of porosity and high surface roughness on the fatigue properties of additively manufactured Ti6-Al4-V alloys”, Additive Manufacturing, Vol. 33, 101139, May 2020.