シミュレーションで医薬品のプロセス設計を強化
デジタライゼーションが、医薬品のラボから生産へのスケールアップをどのように変革しているのか
製薬業は、インキュベーションが長く、研究開発コストが高いため、これまでも常に難しいビジネスでした。今日では、新しいタイプの医薬品の調査・研究が進むなか、製薬業界にはさらに大きなプレッシャーがかかっています。 医薬品の主な目的は、慢性疾患や急性疾患の患者に薬物療法を提供することです。製薬業界は、早すぎる死を招く疾病を克服するブレークスルーを目指して懸命な努力を続けていますが、これは、さらに複雑さを増した革新的な医薬品を開発することを意味します。
コンピューター・モデリング、AI、Quality by Design (QbD) などのイニシアチブの技術的進歩により、新しい治療法やデリバリー・プラットフォームが実用化されていますが、新しく複雑な製造技術が必要になることが多く、それらを迅速かつ費用対効果の高い方法で市場投入することが難しくなっています。 それだけでも大変なのに、製薬企業はさらに、スケールアップの課題と、「ビジネスを完全に持続可能なものにしながら収益を上げる」というプレッシャーにも対処しなければなりません。こうした数々の課題を抱えるなか、製薬業界は新しいアプローチを採用し、医療の限界を継続して押し広げながらコストを抑え、新しい治療法をできるだけ早く患者に提供する必要があります。
異なる寸法スケールや時間スケール、マルチフィジックスが関与する複雑さに対応

シミュレーションは、流体力学、粒子力学、固体力学が関わる多くのオペレーションについて、センサーや従来の実験的・経験的な手法では不可能だった、詳細な情報を提供できるため、製薬業界にとっては欠かせないツールです。一方、製薬のシミュレーションをさらに複雑化させている要因は、異なる寸法スケールや時間スケール、マルチフィジックスが医薬品製造プロセスに関わっていることです。これらをシミュレーションするには複数のツールが必要ですが、ツールを別々に使用するとデータのサイロ化につながります。
新しい医薬品を開発するたびに、ますます複雑化する高額な物理的実験が必要になります。こうした実験では、断片化したデータが大量に生成されますが、結果を出すためにはそれらをコンテキスト化して解析する必要があります。縦割りの組織で作業を進めることは簡単ではありません。ナレッジを共有してコラボレーションし、規制申請や製造を容易に簡素化する手法が必要です。
デジタライゼーションは必須条件
そこで課題が生じます。堅牢な製造プロセスを素早く設計し、ラボから生産へと効率的にスケールアップするはどうすればよいでしょうか?

その必須条件となるのは、創薬から商業生産までの製品ライフサイクル全体のデジタライゼーションです。臨床試験や製造で得られたデータと知見を将来の研究開発へとフィードバックする、継続的な最適化ループを構築することが鍵となります。シミュレーション・ソリューションを活用することで、製薬企業はレシピ開発を加速し、コラボレーションと医薬品の製造可能性を向上させながら、市場投入期間を短縮してリソースコストを削減することができます。
ギャップを埋めて医薬品の複雑さに対処
製品とプロセスのデジタルツインを構築することで、実世界のデータとシミュレーション・データを組み合わせて予測モデルと処方モデルを設計することができます。ISA-88に基づくエンタープライズ・レシピ管理 (ERM) アプローチによって、レシピを設計し、ラボから臨床試験、商用生産へとスケールアップさせて、ナレッジ駆動型のデジタルレシピ変換を可能にします。
このようにしてメーカーは、原材料の使用を減らし、機器の使用を最適化することで、生産の堅牢性、費用対効果、持続可能性を改善できます。

Siemens Simcenter STAR-CCM+を使用してモデル化した気-液 バイオリアクターのCFDシミュレーション
しかし、シミュレーションだけでは、製薬業界が直面する最新の課題の解決策を見つけることはできません。医薬品メーカーは、シミュレーションから素早く知見を導き出し、データを効率的な方法で取得して、情報に基づいた意思決定をリアルタイムで下すことができなければなりません。このため、Simcenterポートフォリオの製品は、マルチスケールシミュレーションとマルチフィジックスシミュレーションを組み合わせるように構築されています。これにより、医薬品の製品ライフサイクル全体を構成するさまざまな開発段階の間のギャップを埋めることができます。
実行可能なデジタルツイン(xDT) の価値
xDTは、ほぼリアルタイムで実行できるほどシンプルでありながら、最先端の数学的手法を使用してプロセスを正確に表現し、プロセスの設計やオペレーションを解析して最適化する、物理ベースの退縮モデルです。この最適化の価値は、生産寿命全体を通して保証され、場合によっては数十億ドルに達します。
世界的なバイオ医薬品企業であるGSKは、Simcenterソリューションを活用して、ワクチン・プロセスの最初の仮想レプリカを開発し、ワクチンの開発期間を25%短縮しました。実行可能なデジタルツイン (xDT) により、開発のあらゆる段階で生産プロセスを仮想でテストし、仮想センサーでリアルタイムにデータを収集して、重要な知見を取得します。これにより、ワクチンをより早く市場投入できるだけでなく、そうでなければ無駄になっていたであろう大量のバッチを節約することができました。その後、ドイツの医薬品企業、BioNTech SEが、パンデミックを抑制するための重要な新型コロナワクチンの製造に、同様の技術を使用しています。
単なるシミュレーションではない
今日の医薬品の開発と生産の複雑さをモデル化することは、形状、物理特性、および性能に影響を与える可能性のあるその他すべての要素を理解するために不可欠です。シミュレーションにより、あらゆる可能性を探索できます。仮想モデルを使えば、エンジニアは物理試験による制約を受けることなく、より自由に実験することができます。
製薬企業にとって、市場投入期間とグローバル市場での存在感は絶対的な優先事項ですが、プロセスの最適化を怠らないことが重要です。シミュレーションで得た知見は、競争が激化する市場において、プロセスの最適化と、設計空間探索の加速の両方にメリットをもたらします。

Simcenterのシミュレーション・テスト・ソリューションは、製薬企業が、デジタライゼーションとデジタルツイン技術のもたらす機会を活用できるように支援
同様に重要なのは、さまざまなSimcenterツールをシームレスに統合して、異なる機能領域での開発を同時に継続できるようにすることです。チーム間の緊密なコラボレーションにより、全員が最新の変更を認識できるようになれば、個々のコンポーネントではなく、プロセス全体に対して意思決定が最適化されるようになります。Simcenterは、最新のプロセス取得ツール、ワークフロー自動化、および高性能クラウド・プラットフォーム上でのソフトウェア実行のオプションを組み合わせることで、開発をさらに加速して精度を高めます。
Simcenterが製薬業界をどのように変革しているのかについては、こちらのホワイトペーパーをご覧ください: