半導体産業のデジタライゼーション


次世代の半導体デバイスの形成に、デジタル・スレッド・エンジニアリングとシミュレーションが不可欠である理由
半導体業界は長らくムーアの法則に支配されてきました。 ムーアの法則は、「テクノロジーが進歩するにつれてIC (集積回路) 基板は、1〜2年ごとに劇的に小型化する一方で、組み込まれるトランジスターの数は倍増する」と予測します。ICはエレクトロニクス・デバイス全体に広く普及しているため、この進化はテクノロジーの進歩に不可欠でした。
しかし今、この進化は経済的な限界に達しています。進化のペースを維持するために必要な設備には、数百億ドルの費用がかかると予測されています。
多くの企業にとってこれは手が届かないものであるため、代わりにメーカーは、生産する製品の種類に重点を置くようになっています。また、製造プロセスを改善して製造時間を短縮し、コストを抑える方法も模索しています。
この課題の解決策は、デジタル・スレッド・エンジニアリングの導入にあります。具体的にはどうすれば良いでしょうか?
デジタル・スレッドとは何でしょうか?
シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアの半導体担当バイスプレジデント、David Coreyは、デジタル・スレッドを「企業全体の、特定のタスクを遂行する製品またはサービスの集合体」と表現しています。これは、最終製品の要件に関するデータから始まり、これらの要件が満たされているかどうかの検証・妥当性確認で終わります。
半導体デバイスの複雑化が進むなか、開発を最適化するには、完全な製品ライフサイクル管理が必要になっています。しかしそれは簡単ではありませんでした。そうしたシステムの大半は自動車業界や航空宇宙業界向けに開発されたものだったからです。数千もの部品を設計し、それらを組み合わせて車両や航空機を作るプロセスに対応していました。半導体の場合は、1枚のウエハーから始めて、その後それを、製品ごとに異なる集積回路基板で使用します。
ウエハーの製造には1,000のプロセス・ステップがあり、さらにアセンブリ試験には約100のプロセス・ステップがあります。これは、膨大な数の変数があることを意味します。また、企業は半導体デバイスの継続的な改善に努めるなかで、炭化ケイ素や窒化ガリウムなど、シリコンの代替品を試していますが、これでさらに多くの変数やデータが発生することになります。
これを効率的かつ効果的に管理するためには、マスターデータを制御する手法が必要です。そこでシーメンスは、半導体に特化した新しいライフサイクル管理システムを開発しました。
半導体ライフサイクル管理
デジタル・スレッドには、製品を構成する個々のコンポーネントの設計データが含まれています。また、設計対象のデバイスに適合し、効果的に機能することを示すデータも含まれています。 半導体デバイスの場合これは、熱応力解析、機械シミュレーション、振動のデータを意味します。このデータを効果的に管理するには、集積回路設計、パッケージ設計、プリント回路基板設計、製造にそれぞれ1つのデジタル・スレッドが必要です。
これらのスレッドは、連携させる必要があります。そこでシミュレーションの出番です。以前は、これらの各要素は、独立して作業するチームによって別々のサイロで開発されていました。これらの要素を統合する時までには、大規模な再設計は困難になり、費用も高額になっています。シーメンスのエレクトロニクス・シミュレーションの専門家であるAndras Vass-Varnaiは、これには解決策があると言います。シミュレーションを使えば、チームはプロセス全体を通して、より緊密に連携できます。仮想モデルは、物理プロトタイプよりも遥かに簡単かつ安価に構築でき、更新、試験、検証を定期的に、並行して行うことができます。そのためには、データを管理し、全員が確実に最新の設計で作業できるシステムが必要です。
マルチフィジックス・シミュレーション
Simcenterポートフォリオは、パワー・インテグリティ、シグナル・インテグリティ、熱的応力、機械的応力など、設計プロセス全体にわたるマルチフィジックス・シミュレーションを可能にします。もちろん、全体の性能の1つの領域を改善すると、別の領域が悪化することもあります。このソフトウェアには、最も効率的な方法で各コンポーネントの最適な設計を実現するためのワークフローと自動化が含まれています。
この統合がないと、メーカーはシステムから別のシステムへと設計を絶えずインポート/エクスポートしなければならず、その過程で人為ミスが発生する可能性が何度も生じます。また、最後まで到達しても、デバイスが機械的に実行できない場合は、最初からやり直さなければなりません。デジタル・スレッドは、製品間でデータが常にシームレスに流れるようにすることで、こうしたインポート/エクスポートを不要にし、いつでも最新の設計にアクセスできるようにします。

産業用メタバース
メタバースという造語が最初に登場したとき、それは「人々が現実世界から逃れて仮想ユートピアに逃げ込む」というビジョンを想起させました。まるでディストピアSF映画のようです。しかし、産業用メタバースはそれとはまったく違います。シーメンスのCEO、Roland Busch博士は、CES 2024の基調講演で、「産業用メタバースとは、現実を再定義して、すべての人の日常を変革することだ」と述べました。
デジタル・スレッドとシミュレーションは、産業用メタバース、つまり未来の製品を生み出す仮想世界の一部です。シミュレーションを仮想現実ヘッドセットやセンサーと組み合わせることで、設計エンジニアはまもなく、開発中の車両や製品内に座って、車両や製品を構成するすべてのコンポーネントと対話できるようになります。構築する前にユーザー・エクスペリエンスをテストすることほど、設計を最適化する良い方法があるでしょうか?
半導体業界におけるデジタル・スレッド・エンジニアリングの重要性については、シーメンスのDavid CoreyとAndras Vass-Varnaiによるウェビナーをご覧ください。
また、産業用メタバースについて、および産業用メタバースが未来をどのように形成していくのかについて関心のある方は、こちらからCES 2024のシーメンスの基調講演の全文をご覧ください。